「何もできない」状態で何をする?
言語聴覚士が専門とする症状はいろいろありますが
やはり「失語症」といえば言語聴覚士の腕の見せ所。
とはいえ失語症と一括りにされても、
まったく同じ症状の方は2人といませんし、
教科書通りに当てはまるケースなんてありません。
特に全失語の方のリハビリでは、
- なにをしても反応が乏しい
- 重度失語症検査でさえ成立しない
- そもそも「リハビリ」にならない!
と感じる場面も。
そこで今回は、
「何の課題もできない…どうすれば?」という場面で
実際に行っている関わりを紹介します。
まず一番大事なこと:信頼関係づくり
よく
「失語になると外国語の中にいるような状態」
と言われますよね。
もし自分が、
- 何を言われているか分からない
- そんな中で次々と課題を出される
…という状況だったらどうでしょうか?
「どうすればいいのか分からない!」とパニックになりますよね。
課題にやる気になれなくても当然です。
だから私は、失語が重い方ほど“課題”より“コミュニケーション”が必要と考えています。
「そのコミュニケーションをとるのが出来ないんだってば!」
と思われる方もいるかもしれませんが
言語聴覚士なら言葉だけがコミュニケーションじゃないことは知っているはず。
- 視線や表情
- 声のトーン
- 寄り添おうとする姿勢
言語での意思疎通が難しくても、「分かろうとしている」姿勢がきっと伝わります。
「この人のことを、信じてみようかな?」
そう思ってもらえる関係をつくってからが、
全失語リハビリの本当のスタートです。
コミュニケーション手段の確保
全失語の場合、信頼性のあるコミュニケーション手段が
すぐに見つからないことも多いです。
- 指差しはできる?
- 実物なら分かる?
- イラストなら分かる?
- Yes / No の表出はある?(首振りなど)
などを確認していきます。
また、すぐに活用できるかわからなくても
コミュニケーションボードは、
入院当日から渡すようにしています。
「この人は自分を支えてくれる人だ」と
安心してもらえるきっかけになればという思いからです。
本人の様子を見ながら
内容をこまめにアップデートするのも
円滑なコミュニケーションに必要なアプローチです。
「検査ができない」レベルの評価
ここからはリハビリの具体例です。
重い失語で思い浮かぶのは重度失語症検査ですが、
今回は検査での評価ではなく
あくまで課題の中での評価についてお話します。
個人的には重度失語検査がまだ難しいかな?という方には
無理に検査を取らなくてもいいのでは、と感じています。
むしろその段階では、関係構築を優先した方が結果的にスムーズに進むことも多いです。
もちろん評価自体は大切なことなので
患者さんへの負担を考慮しながら
必要に応じて実施していきましょう。
検査も難しい段階の患者さんには
様々な方法で「どのモダリティで、どの程度の反応が出るか」
を見ていきます。
●話す
そもそも声を出せるかは大事なポイントです。
「意味のある発話」じゃなくてもOK。
出るなら
- 口形の模倣(あ・い・う・え・お等)
- 氏名や単語を一緒に言ってみる
- 系列語
- 本人の好きな歌で歌唱
など、どの程度言語らしい音声が出せるかを見ていき、
そこから音声言語(斉唱・復唱など)の訓練に進みます。
出せない場合は失行なども疑いながら
まずは出来る範囲で口を動かすことから慣れていきましょう。
●書く
右利きの方が多いため、麻痺でそもそも難しく
ペンを持つのも前向きになれない人もいます。
無理せず、まずは氏名など身近な内容から実施します。
書けない場合は一文字目をヒントにした補完的な書字や
なぞり書きなども試します。
失語症の課題は
ゆくゆくはプリント等の課題になる場合が多いので
この時点で筆記に拒否感が出ない範囲で進めています。
表出は難しく失敗体験になるようなら
はじめは表出課題にこだわらなくても
理解や非言語の課題で成功体験を積むのも良いでしょう。
●聞く・読む
「聴覚理解」と「読解」ともに、
絵カードの2択を評価します。
2択がある程度できれば、次から言語らしい課題(カード選択・プリントなど)に進めます。
難しい場合は、まずは言語訓練にはこだわらず
下記のパズルなど非言語の課題でリハビリ自体に慣れてもらうことから始めます。
言語以外の課題:息抜きと評価を兼ねて
言語課題ばかりだと患者さんも疲れてしまいます。
また重度の失語を呈している方は
精神機能やその他の高次脳機能障害に
問題を抱えていることが少なくありません。
そのため
・輪入れやパズルなどのアクティビティ
・視覚的・直感的に行える簡単なプリント課題(記号抹消など)
などを取り入れて、
息抜きと認知面・知能面・高次脳機能面のざっくり評価も兼ねて行います。
言語が絡まない内容で
どの程度の課題ができるのかを把握しておくのは、
その後のリハビリを考える上でも大切です。
また、非言語の内容の中で自然なコミュニケーションをとりながら
可能な範囲で本人からの反応を引き出していきましょう。
▼私がよく使用しているのはこちらのプリントです。
リハビリに慣れてきたら
STと過ごす時間に慣れてきて、
少しずつ「課題らしい課題」ができるようになってきたら、
次のステップへ。
このレベルからはもう少し先になりますが、
当サイトでは重度失語向けのプリントも用意していますので
ぜひ参考にしてみてください!
まとめ
全失語、とくに最重度の方では、
「検査ができない」「課題が成立しない」状態から始まることも少なくありません。
そんなときに大切なのは、
無理にリハビリらしいことを進めることではなく、
その人とどう関係をつくり、どう意思疎通を支えるかを考えること。
小さな反応や、
わずかなコミュニケーションの芽を拾いながら、
できることを一緒に探していく。
全失語のリハビリは、
課題よりもまず「人として向き合うこと」から始まると感じています。
その積み重ねが、次のステップにつながっていきます。





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